法律や相続の実務において、相続が開始される「死亡(心臓停止)」には明確な定義があります。
結論から申し上げますと、医学・法律上の死亡は「三徴候説(さんちょうこうせつ)」という3つの基準すべてを満たした状態を指します。
1.死亡と判定される3つの基準
医師が死亡を確認する際、以下の3つが「二度ともとに戻らない状態」であることを確認します。
- 呼吸の停止: 自力で呼吸をしていない。
- 心臓の停止(脈拍の停止): 心臓が止まり、脈が触れない。
- 瞳孔(どうこう)の散大: 目に光を当てても瞳が反応せず、開きっぱなしになる。
これら3つすべてが揃った瞬間が、法律上の「死亡時刻」となり、同時に「相続開始の時刻」となります。
2.「心肺停止」と「死亡」の違い
ニュースなどでよく聞く「心肺停止」と、法律上の「死亡」は意味が異なります。
- 心肺停止: 心臓と呼吸が止まっているが、まだ医師が「死亡」と判定していない状態です。適切な処置をすれば蘇生する可能性がある「重篤な状態」を指します。
- 死亡: 医師が上記の3つの基準を確認し、もはや回復不可能であると判断した状態です。民法や戸籍法では、この「死亡」という言葉が使われます。
3.相続手続きにおける「死亡時刻」の扱い
相続において「何時何分に亡くなったか」は非常に重要です。例えば、家族が不慮の事故などで同時に亡くなった場合、どちらが1分でも先に亡くなったかによって、財産を引き継ぐ順序(誰が相続人になるか)が変わってしまうからです。
法律上、同時に死亡したとみなされると、その二人の間では相続が発生しない。例えば、父と長男が事故で同時に死亡したと推定されると、父の財産は長男を経由せず、母と二男へと直接引き継がれる。しかし、もし「父が1分先に亡くなった」ことが医師の診断や救急記録で証明されれば、一旦長男が父の財産を相続し、その直後に長男の分としてまた別の誰か(長男の妻子など)へ引き継がれるという、全く異なる結果を招く。
実務上は、医師が書く「死亡診断書」に記載された年月日時分が、すべての相続手続きの基準となります。この時刻は「医師が死亡を確認した時刻」ではなく、可能な限り「実際に息を引き取った時刻」が記されます。
※なお、脳死判定が行われた場合に限り、法律によって「2回目の脳死判定が終わった時刻」を死亡時刻とすることが定められています。
アドバイス: 相続手続きにおいては、この死亡診断書のコピーが銀行や役所などで何度も必要になります。提出すると手元に戻らないことが多いため、役所に提出する前に、少し多め(5〜10枚程度)にコピーを取っておくことを強くおすすめします。